元配管工の備忘録

元配管工(現コメディカル)のブログ

元配管工の怪談【井戸の掃除】

同業者Aさんから聞いた話

 

15年以上前の話。

Aさんの父親は管工事業を自営で営んでいる。

実家は福島県のど田舎にあり、従業員などはとくにおらず、いつもは父親1人、忙しい時は母親に手伝って貰い、夫婦で仕事をしていた。

当時会社員をしていていたAさんは、休みの日で、特に用事がなければ手伝いにいく。(なかなかいいバイト代をくれる)

ある日、実家から、明日仕事を手伝って欲しいと連絡があった。

次の日休みだったAさんは心よくその依頼を受けた。

なんでも、客の家の井戸水が急に出なくなってしまったとのこと。そしてその原因を調べて修理して欲しいとのことだった。

父親が運転するハイエースに乗り現場に向かった。

着いた先は大きな日本家屋でかなりの豪邸だった。

親父が家主と話をし、井戸へ向かった。

 


恐らく井戸の底に土かゴミがつまっているのであろうとの父親の見解。

 


井戸は庭の隅にあり、重々しい石のフタがされていた。

 


父親と2人がかりでフタをはずし、ポンプで水を抜き始め、しばらく待つ。

 


だいたいの水が抜き終わり、ハシゴを下ろす。

 


「よし、じゃあ降りろ」

 


「え?」

 


てっきり上から泥を引き上げ、機材を下ろす係だと思ったらAさんに降りろとのこと。


Aさんは井戸の中に入ったことが無かったので興味はあった。

 


「じゃあライターを付けながらおりろ。酸素がないかもしれないからな。不自然に消えたら出てこい。」

 


結構危険みたいだ。

言われるがまま、ヘッドライトを付け、ライターを着火し、恐る恐るおりた。上から見た感じは二階建ての建物くらいの高さだったらしい。

 


井戸の表面にはカマドウマなんかが止まっていてそれが何よりも嫌だった。

 


ジメジメとして独特の雰囲気。映画のリングを思い出して思わずサブイボが立つ。

 


そして井戸の底に到着した。多少の水は残っていたが、底が見える。確かに泥が溜まっている。

 


底をライトで照らし、よく見てみると、壁際の隙間の一箇所から水が湧き出しているのがわかった。一度上にあがり、父親に状況を、伝えると、ブレーカーでコンクリートを少し削ってみろとの話。

 


もう一度中に入り、父親にロープで結えた機材を下ろしてもらう。

 


水が湧き出している部分にブレーカーを押し当て、削り始める。しばらく衝撃を与えていると、一部コンクリートがボロっと50cm程の高さで簡単に剥がれた。

 


えっ?と驚いた。よくみると後からコンクリートで埋めたような後だ。湧水の量も少し増えた気がする。

 


このコンクリートが邪魔だったのか?

機械を止め、崩れたコンクリを手でどけてみた。

 


ヘッドライトを当てたら背筋がヒュっと寒くなった。そこには体が半分ほど壁に埋め込まれた地蔵?のようなものがあった。しかし、地蔵とは言えど、本来の穏やかな顔とかじゃなく、完全に無表情そのものだった。

 


一瞬固まり、そのまま後退りをしてしまった。

 


その瞬間、地の底からウゥゥ‥と地鳴りのようなものが聞こえ始める。

 


あ、でよう。Aさんの中の危険信号がそう伝えてきた。

 


急いでハシゴを登り始めた。もう恐怖で半分泣いてたと思う。底からの地鳴りはどんどんハッキリと聞こえるようになっていた。井戸の真ん中まで登ったあたりで

 


あ、これお経だ。って気付いた。しかも大勢の。

 


あとはもう死にものぐるいでハシゴを登り、やっと外にでた。いや、転がり出た。

 


どうしたんだ?

 


と不思議そうな顔をする父親に息も絶え絶えこの状況を伝えた。

 


んん?うーん‥‥で、水は?

えっ?あぁ‥少し出は良くなったけど‥

んじゃそれで様子を見るか

 


呆然とするおれをそのままに、父親が機材を上げ始めた。

 


父親「A、このことはお客さんには言わなくていい。伝えなくていいことかもしれんしな」

 


あとは普通に片付けをし、現場を後にした。

当然おれは恐怖でその井戸を見れなかった。

 


そのあとは特になにも起こらなかったが、その後、10年たってもAさんは井戸は苦手で、視界に入ることすら嫌う。

 

ちなみに、その家は現在も存在しているそうだ。